ワクチンが守ってくれるものとは?ワクチン専門家が考えるその意義
病気やその重症化の予防が目的のワクチンに対する社会的な関心が高まっています。予防医療の一つとしてのワクチンには何が期待でき、私たちに何が求められているのでしょうか。欧州製薬団体連合会(EFPIA Japan)では、国内外で予防接種の診療や研究等を続けている川崎医科大学の中野貴司教授にワクチンの社会的意義やヘルスリテラシー*についてお話を伺いました。(所属・役職は2021年9月取材当時)
─ワクチン接種と治療の違いは何でしょうか。
ワクチンは、均一的に、同じ手法で人々の健康を守ることが期待できるものです。一方治療は、同じ治療薬を使っていたとしても、患者さん一人一人に対してオーダーメイドな対応が必要となります。このような意味で、ワクチンには、同じ手法によって、個人に合わせた複雑な治療が必要になる将来のリスクを低くすることが期待できると一般的に言えると思います。
─海外ではワクチンはどのように社会的に位置付けられているのでしょうか。
海外では、ワクチンは人々に最低限提供されるべきもの(minimum requirement)として社会的に位置付けられていると思います。世界では、任意接種のワクチンはほとんどありません。その国が特定の病気を予防した方が良いと判断すれば、熱帯地域などの一部の国や地域で入国時に求められるようなワクチンを除いて、ワクチン接種をすべての国民に勧めるというスタンスです。
私がずっと活動してきた開発途上国では、医療サービスは必ずしも人々へ均等に提供されるとは限りません。ヨーロッパでも夜に熱を出しても医療機関をすぐに受診できるとは限りません。医療へのアクセスが必ずしも容易ではない海外では、病気の予防や重症化予防のための最低限必要なものとしてワクチンが提供されていると考えられます。
─日本には、国民皆保険制度があり、医療機関での受診に特段の制限はありません。ワクチンの社会的意義は低いのでしょうか。
国や医療体制が異なっていても、感染症対策の基本はワクチンによる予防であると思います。医療費抑制の観点でも、「予防できる病気はワクチンで予防する」との考え方の重要性は、医療保険制度や医療提供体制などが海外と比較して満たされている日本でも変わらないと思います。ただ、保険制度や医療体制が充実していたからこそ、日本では「ワクチンで健康を守る」という意識が海外と比べて若干低いかもしれません。
─ワクチンへの理解を深めるにはどのような方法があるのでしょうか。
私は、医療従事者と患者さんが話し合いを重ねて意思決定が行われる「シェアード・デシジョン・メイキング」(shared-decision making)が有用だと考えています。ワクチン以外の医療行為は、科学的根拠に基づいた複数の正しい情報をもとに、その治療方法のベネフィットとリスク、代替の対処方法を聞いた上で選択されており、これは日本だけではなく世界的な理解です。ワクチンに関しても同じことが言えると思います。ただ、医療従事者と患者さんの個人間だけではワクチンを接種すべきかの判断が難しいこともあるかもしれません。途上国では学校にワクチン接種を勧奨するポスターが貼ってある場合が多々あります。日本では行政の役割が非常に大きいと思いますが、ワクチンに関わる様々なステークホルダー(利害関係者)が声を一つにして取り組む必要があるかもしれません。
─日本や欧米などの製薬企業が画期的ワクチンを世界中で開発していますが、「国産ワクチン」や「海外ワクチン」をどのように考えたらよいでしょうか。
私は、グローバルな舞台で正当な評価を得た医療手段は、日本でも素晴らしい手段であることは、おそらくは間違いないはずであると考えています。
ワクチンは、均一的に、同じ手法で人々の健康を守ることが期待できるものです。一方治療は、同じ治療薬を使っていたとしても、患者さん一人一人に対してオーダーメイドな対応が必要となります。このような意味で、ワクチンには、同じ手法によって、個人に合わせた複雑な治療が必要になる将来のリスクを低くすることが期待できると一般的に言えると思います。
─海外ではワクチンはどのように社会的に位置付けられているのでしょうか。
海外では、ワクチンは人々に最低限提供されるべきもの(minimum requirement)として社会的に位置付けられていると思います。世界では、任意接種のワクチンはほとんどありません。その国が特定の病気を予防した方が良いと判断すれば、熱帯地域などの一部の国や地域で入国時に求められるようなワクチンを除いて、ワクチン接種をすべての国民に勧めるというスタンスです。
私がずっと活動してきた開発途上国では、医療サービスは必ずしも人々へ均等に提供されるとは限りません。ヨーロッパでも夜に熱を出しても医療機関をすぐに受診できるとは限りません。医療へのアクセスが必ずしも容易ではない海外では、病気の予防や重症化予防のための最低限必要なものとしてワクチンが提供されていると考えられます。
─日本には、国民皆保険制度があり、医療機関での受診に特段の制限はありません。ワクチンの社会的意義は低いのでしょうか。
国や医療体制が異なっていても、感染症対策の基本はワクチンによる予防であると思います。医療費抑制の観点でも、「予防できる病気はワクチンで予防する」との考え方の重要性は、医療保険制度や医療提供体制などが海外と比較して満たされている日本でも変わらないと思います。ただ、保険制度や医療体制が充実していたからこそ、日本では「ワクチンで健康を守る」という意識が海外と比べて若干低いかもしれません。
─ワクチンへの理解を深めるにはどのような方法があるのでしょうか。
私は、医療従事者と患者さんが話し合いを重ねて意思決定が行われる「シェアード・デシジョン・メイキング」(shared-decision making)が有用だと考えています。ワクチン以外の医療行為は、科学的根拠に基づいた複数の正しい情報をもとに、その治療方法のベネフィットとリスク、代替の対処方法を聞いた上で選択されており、これは日本だけではなく世界的な理解です。ワクチンに関しても同じことが言えると思います。ただ、医療従事者と患者さんの個人間だけではワクチンを接種すべきかの判断が難しいこともあるかもしれません。途上国では学校にワクチン接種を勧奨するポスターが貼ってある場合が多々あります。日本では行政の役割が非常に大きいと思いますが、ワクチンに関わる様々なステークホルダー(利害関係者)が声を一つにして取り組む必要があるかもしれません。
─日本や欧米などの製薬企業が画期的ワクチンを世界中で開発していますが、「国産ワクチン」や「海外ワクチン」をどのように考えたらよいでしょうか。
私は、グローバルな舞台で正当な評価を得た医療手段は、日本でも素晴らしい手段であることは、おそらくは間違いないはずであると考えています。
*:ヘルスリテラシーとは、医療健康情報を「理解・活用できる力」のことを意味します。
(厚生労働省「統合医療」情報発信サイト, 2021年9月10日確認)
(厚生労働省「統合医療」情報発信サイト, 2021年9月10日確認)
川崎医科大学小児科学
教授
中野 貴司氏
【中野 貴司(なかの たかし)氏の略歴】
川崎医科大学小児科学教授(医師、医学博士)。信州大学医学部卒業(1983 年)後、三重大学医学部小児科、ガーナ共和国野口記念医学研究所(1987-89 年)、中国ポリオ対策プロジェクト(1995-96 年)等に従事。国立病院機構三重病院を経て、2010 年7 月から現職。厚生労働省厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会 部会長代理も務める。日本小児科学会、日本感染症学会、日本ワクチン学会、日本ウイルス学会、日本小児感染症学会、日本国際保健医療学会、日本渡航医学会(理事長)等に所属。